TENETすこ
作成日: 2021-03-29 | 更新日: 2023-11-26
TENETがすこなので語ります。
まずこの映画、一切の無駄がない。無駄がないというのは物語を褒める常套句だけど、TENETの場合は本当にカリッカリに無駄がそぎ落とされてる。なので異様にテキパキと話が進む。キャラを掘り下げるような回想とかもほとんどない。
説明的すぎという意見はある意味もっともで、この映画の場合は意図的にそうしてるのだと思う。この監督は毎作品なにかしら挑戦的なことしてるけど、今作の場合は時間逆行はもちろんそうだし、情緒的な要素を一切そぎ落として物語を作るっていこともしてると思う。主人公の名前がないのもこの映画はこのスタイルで行きますよっていう宣言な気がする。
この手法は情報量多すぎて初見では100%楽しみ切れないけど、というかTENETの場合は初見ではもはや何もわからなかったけど、その代わり見返せば見返すほど面白くなる。良き映画を見返すとよく「あのシーンはこういう意味があったのか!」ってなるけど、TENETでは時間逆行の仕組みも合わさって全部のシーンでそれが起こる感じ。
昔の映画で、どんでん返しなどの仕掛けありきのやつだと、結構こういう無駄がなくて淡々と進むノリは珍しくない気がするので、妙な懐かしさも感じた。そういう映画はセリフもめちゃ説明的だったりするけど、それがかえって登場人物たちの真剣さを感じて良かったりする。
この真剣さもTENETの好きなところで、特にジョン・デヴィッド・ワシントン演じる主人公のガチさがすごい。スパイ映画というと007とかボーンシリーズがあるけど、あの人たちは方向性は違うにせよすごくスマートな感じやん。007はダニエル版ではシリアスになったけどそれでも表情を崩さず敵をきっちり片づけるクールなかっこよさがある。それに対してTENETの主人公はもうなんというか全身全霊って感じ。野生のイノシシと戦ってるかのように敵を全力で殴って蹴り、試験日に寝坊した受験生のように必死に走る。というかこの映画なんか走ってるシーンが多い気がするけど毎回100m走のごとく全力疾走しててちょっと面白い。相棒のニールもユーモアがあって明るい奴だけど、作戦を遂行するときは真剣かつ全力で行動するのがかっこいい。このガチな気迫から元気をもらえる。
そうはいっても超シリアスな映画かというとそうでもなく、上で挙げたダニエル版ボンドとかボーンとかと比べると、TENETはどことなく楽観的で明るい雰囲気が漂っているのもまた良い。この明るい雰囲気は主人公とニールの役者やその演技によるところも大きいと思う。この二人、なんとなくお茶目でかわいい。
ボンドといえば、TENETは旧作のボンドシリーズのような、古き良きスパイ映画のテイストも感じる(いうほど古き良きスパイ映画知らんけど)。どこかでノーラン監督はボンド映画が好きっての見たことある気がするけど、それなら納得。TENETも、主人公が単身で敵の基地に乗り込んでなぜかへらへらしてる所とか、あくまで仕事仲間だけどどこか気のおけない相棒がいる所とか、敵のボスが妙に小物な所とか、最終決戦は組織vs組織で運動会みたいになる所とか、まさしく伝統的なボンド映画のお約束である。
あと、とにかくニールがかっこいい。イケメンだし、おしゃれだし、明るいし、いいやつだし、クッソ有能だし、しかも物理学の修士号を持ってる。本当にかっこいいんです。ニールの良さは役者のロバート・パティンソンさんによるところも大きい。なんというか、見た目だけじゃなくて動作とかしゃべり方とか立ち振る舞いも良くて、画面に映るだけでなんとなく嬉しい。この特性はブラピのそれに近いかも。演技力だけでは醸し出せない天性の魅力だと思う。
ニールに関しては以下の記事が完全に言語化してくれていて良い。この記事は衣装という観点から主人公やニールやキャットの個性とか関係性を分析してるんだけど、衣装でここまでの演出ができるのかと感動した。
映画衣装の密かな愉しみ:第6回 衣装が伝える『TENET テネット』の“リアリティ”
https://jp.ign.com/clothes-on-film/47958/feature/6-tenet
TENETはストーリーから完全に無駄を省いているけど、その代わりに衣装とかキャスティングとか演技とかちょっとしたセリフとかによるキャラクターの掘り下げが際立ってるのが良い。ストーリー以外の演出でいうと音楽もやはり良い。一部逆再生されているようなメロディになってたりしてすごい。
最大の要素である時間逆行について、これも理解するとすごい面白い。時間が戻るというと、典型的にはバックトゥザフューチャーとかシュタゲとかまどマギみたいな、過去に戻って何かすることで並行世界に分岐して未来が変わるっていうパターンを想像するけど、TENETはそれとは違う。TENETでは、(1)時間が戻るといっても過去にジャンプするわけではなく時間の向きが反対になる、(2)向きが反対なだけで時間軸は一本である(並行世界に分岐しない)、という特徴がある。本作にもタイムマシン的なアイテムはあるが、このタイムマシンを使っても別の時間に移動することはなくて、時間が進む方向が反対向きになるだけなんです。なので過去のある時点に行こうと思ったら、タイムマシンを出てから反対に進む世界でその時間になるまで過ごす必要がある。これを普通の人から見ると逆再生の人が最終的にタイムマシンに入っていくように見える。
この普通の人も逆再生の人も同じ時間軸上にいて、何をしても並行世界に分岐しないのが面白い点で、逆再生の人の行動によって起きたことはあらかじめ歴史に盛り込まれていることになる。TENETは大雑把に言うと、物語の中盤から終盤にかけては時間をさかのぼって過去に向かって進むことになるんだけど、この逆行でとった行動が、実は序盤から中盤のストーリーの時点で確かに起こっていたことが見返すとわかる。これがめちゃくちゃ面白い。
時間逆行の理論的な側面の解説は以下の動画シリーズがすごくわかりやすい。おそらくこの投稿者は量子力学系の研究をされてるorされてた方だと思われるが知識と洞察がすごい。
TENET/テネット 「陽電子は時間を逆行する」の意味&この映画のコンセプトを解説【核心ネタバレなし】 - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=jhk7N0ZHuU0&t=14s
ところで、上記の設定で物語を作ろうとすると大きな壁にぶち当たる。なぜなら、並行世界がないという事は過去に戻っても結果を変えられないという事なので、それなら登場人物は必死こいて行動したり、うまくいくかいかないかにハラハラしたりする必要はないという事になるから。たぶん自分ならこの時点でこの設定で物語を作るのは無理だとなってしまうと思う。
TENETではこの問題をあえて物語のテーマに持ってきているんだと思う。TENETの世界では、登場人物たちは時間軸は一本だということを心のどこかでわかっているのに、それでも真剣に行動しているように見える。つまり、運命が決まっていてそれをなぞっているだけだとしても、その運命は自分たちが意思を持って行動した結果だから、あくまでも全力で生きて正しいと思うことをしなければならないという信念が登場人物たちの根底にあって、そのことがラストの主人公とニールの会話にも現れている。そしてこれが、この無駄を完全にそぎ落とした映画の中で唯一情緒的というか、グッとくる要素になってるのが熱い。
突然ですが語りたいこと語ったので最後に好きなシーンを列挙して終わります。信じられないくらい今更ですがネタバレ注意です。
- 開幕、主人公が拳銃をカシャってやって眠そうにこっちを見るとこ:この一瞬で主人公がただ者じゃないことがわかる。かっこいい。
- ニールが初登場するところ:肌テッカテカ髪ボッサボサ服シッワシワなのになぜかかっこいい。ここの音楽も良い。
- レストランのキッチンで敵と戦うところ:ここなんかわからんけどめっちゃ好き。海外のコメントでホットソースを頼んだのに来なくてブチ切れてる男って言われてて笑う。チーズすりおろす器具で倒された人かわいそう。
- 空港に侵入するところ:主人公がかっこつけてコーヒー頼んで持て余してるのかわいい。「ヨガ」すき。
- セーリングのとこ:主人公が普通に楽しそうなのかわいい
- 逆行後、空港作戦に成功してトラックでの会話:ここすき。主人公とニールの間に友情が生まれてるのを感じるエモシーン。
- スタルスク12での最後の会話:「これは素晴らしい友情の終わりだ」・・・すこなんだ・・・