🌮!そこうよへプッラクスコタ

いまさらTENET考察マン

作成日: 2025-12-30 | 更新日: 2025-12-25

メリークリスマス。なんか人にTENETを勧めてたら(人にTENETを勧めるな)自分が観たくなってしまい、久しぶりに観てみたら、いままでなんとなくわかってなかった部分がわかってきた気がするので、いまさら考察マンです。

世にあふれるTENET考察でよく取り上げられていて大体コンセンサスが固まっているような部分はスルーで、あんまり考察で見かけない部分を中心に、トンデモ理論を駆使しつつ考えてみた次第です。言うまでもなくネタバレ全開なので注意です。

目次

  1. オペラハウスのテロシーン
  2. オスロの空港シーン
  3. 高速道路のアルゴリズム強奪~カーチェイスシーン
  4. 逆行後のオスロの空港シーン
  5. スタルスク12の戦争シーン&その他
  6. おわりに

オペラハウスのテロシーン

なんでテロリストはガスマスクを持ってたの?特殊部隊とグルだったの?

普通に射殺しているので、グルではないと思います。ただ、ウクライナの特殊部隊がすぐに到着していますし、彼らが証拠隠滅の爆弾を仕掛けていることから、この騒ぎ全体の黒幕はウクライナ当局だと思われます。目的は主人公が言ってる通り、CIAスパイの暗殺と彼が手に入れたプルトニウム241の奪還です。

なので、政治的な誘導によって引き起こされたテロか、偽装テロを起こすよう雇われた傭兵か、この日付にこの場所でテロが起きることがあらかじめわかっていたため合わせて仕組んだ暗殺作戦か、というのが妥当な線でしょう。いずれにせよテロリストら自身は本気で戦っているのだと思います。

ガスマスクについてはおそらく普通に準備よく持っていただけだと思います。2002年に起きたモスクワ劇場占拠事件では、特殊部隊がテロリストを眠らせるために無力化ガスを劇場に流し込んでいます。作中のテロリストたちは当然この事件を知っており、対策としてガスマスクをあらかじめ用意していたということでしょう。

主人公を拷問したバンの運転手のおっさんは何者?

おそらくセイターの部下です。オペラハウスのテロの裏で暗躍していた勢力には、CIA、TENET、ウクライナ当局に加えて、「ロシア人」がいたことを船にいたCIAの上官らしき人が言及しています。拷問おじさんは当然CIAやTENETの仲間ではありませんし、ウクライナ当局の人間ならわざわざテロ作戦の邪魔になる主人公たちを手伝う理由がありません。よって彼らは上官おじさんの言う「ロシア人」の勢力の人間ということになります。そして、作中に出てくるロシア人はセイターたちだけなので、彼らはセイターの部下で間違いないでしょう。

セイターはCIAの秘密の合言葉を知っていたり、自殺用のピルを持っていたりと、CIA内部に通じている描写があります。おそらく拷問おじさんたちはCIAの現地協力者としてセイターが潜り込ませたのでしょう。そして、主人公らの作戦を手伝うと見せかけて、戻ってきたところを始末してプルトニウムを奪う計画だったと思われます。

オペラハウスでの主人公の原語セリフを読むと、「俺達の脱出ルート(拷問おじさんのバンで逃げるルート)は信用できないから別の方法で逃げろ」というようなことを指示して、ターゲットのCIAスパイに服を交換させています。主人公も薄々拷問おじさんは怪しいと感じていたのでしょう。しかし、ターゲットの顔まで割れているとは思っていなかったので、変装した仲間とともにのこのこ戻ったところ、速攻バレて拷問される羽目になりました。

オスロの空港シーン

贋作の絵を処分するために美術品保管庫に入ったのに処分してなくない?

絵の処分もする予定でしたが、保管庫中央部の怪しい部屋を調査していたら突如回転ドアから現れた黒防護服の男と格闘するはめになり、時間がなくなってしまったので諦めたのだと思います。

しかし、飛行機が保管庫に突っ込んだニュースはキャットも見ていたので、主人公は「あれはもう心配ない」と嘘をついて押し通した感じですね。任務的には一時的にでもキャットの信頼を得てセイターに近づけさえすればいいので、それで十分だったわけです。その結果、後に「あの人は絵を持ってた」とキャットに詰め寄られて「仕方がなかったんだ…」と謝るはめになります。

空港作戦後のニールとの会話意味わからんくない?

空港作戦後、主人公がニールに作戦が時間を逆行させる技術に関わることを明かしますよね。その後のやり取りがいままで全然よくわからなかったんですよ。まあ雰囲気良いんでなんとなくで流してたんですが。

ここ、たぶん翻訳ミスのせいでただでさえハイコンテクストな会話が更にわかりづらくなっているんですよね。まず、該当箇所の英語字幕と吹き替え版のセリフを並べて二人のやり取りを見てみましょう:

ニールThe implications of this are...つまりこの任務は…
主人公Beyond secret.機密なんてもんじゃない。
ニールThen why'd you bring me in?どうして僕を?
主人公I thought we'd find a drawing and a couple boxes of bullets.絵とか銃弾を探す仕事かと思っていたが…
ニールNot as surprised as I was.いやあ、驚きだよね。
主人公I'm going back to Mumbai to get some answers. I'll set you up as a go-between. But remember, to you...it's all about plutonium. And when we're done, they'll kill you.ムンバイに戻って答えを探してくる。君は仲介役だがこれだけは言っておく…狙いはプルトニウムだ。任務の後は殺される。
ニールWon't you have to do that anyway?それ、君にだろ?
主人公I'd rather it be my decision.それは俺次第だ。
ニールSo would I. I think.だったら、仕方ない。
主人公(くすっと笑う)

ここ、なんか、わかったようなわからないような気がしません?まず、「狙いはプルトニウムだ。任務の後は殺される」って理不尽すぎない?と感じますし、「だったら、仕方ない」というのも急に重すぎて主人公が笑うような軽口になってないですよね。

これはですね、"And when we're done, they'll kill you."の部分が英語字幕からして間違っているせいです。脚本では"And"ではなく"Or"なんですよね。いや、ジョン・デヴィッド・ワシントンが全然口を動かさずに喋るんですっごい微妙なんですが、脚本に従って"Or"だとすると会話全体が理解できるんですよ。「狙いはプルトニウム」といった後に"And"だと「それに」というニュアンスになってしまいますが、"Or"ならば「さもなくば」となりますよね。それを踏まえて二人のやり取りの後半を再解釈するなら以下のようになると思います:

主人公I'll set you up as a go-between. But remember, to you...it's all about plutonium. Or when we're done, they'll kill you.君は仲介役ってことにしておく。だがいいか、君にとってはこれはプルトニウムの案件だ。じゃないと任務後に殺される。
ニールWon't you have to do that anyway?どっちにしろ俺を殺さなきゃいけないんだろ?
主人公I'd rather it be my decision.それは俺が決める。
ニールSo would I. I think.なら俺もそうしたい、かな。
主人公(くすっと笑う)

どうですかこれ。エモくないですか。つまりですね、時間逆行技術はあまりに機密度が高いので、狙いはあくまで「プルトニウム」という体にしておかないと消されちまうぞ、って主人公は忠告してるわけですね。それに対してニールは「そんなことしたって知ってしまった以上俺を殺さなきゃダメなんだろ?」と痛いところを突いてくるわけですが、主人公は「それは俺が決めること」とします。それにニールは"So would I"と返すわけですが、つまりこれは「じゃあ俺も自分で決めるのがいいな」という軽口なわけですね。なので主人公は「お前が自分で決めていいわけねーだろw」と思わず笑ってしまうわけです。

が、ですよ。ニールの本当の立場を知っている二周目以降の視聴者からはこれは「君が(自分の意思で)僕を殺すならかまわない」という意味としても取れて、ダブルミーニングになってるんですよね。エッモッッッ!!!いや、深読みし過ぎかもしれませんが。エッモォ……。そうなってくると照れ隠しみたいに付け足す"I think"がまたさぁ……いやあ……たまげた。

高速道路のアルゴリズム強奪~カーチェイスシーン

セイターは結局どうやってアルゴリズムを手に入れたの?

基本的に主人公の主観で描かれるのであの高速道路とフリーポートの流れでセイターが何をやってたのかよくわからなくなりますよね。

セイター目線での流れを整理すると以下のようになります:

  1. キャットをフリーポートに連れてきて暴行し「ウェエエェェイ!!」と叫ぶ
  2. 回転ドア部屋の隠れて順行側の出来事を聞く
  3. 主人公が「BMWだ」と吐いた後に姿を現し、回転ドアに入って逆行
  4. 主人公が吐いたという因果を成立させるためにキャットのお腹を撃って逆順に尋問
  5. キャットをフリーポートから高速道路に連れていき逆行アウディに乗せる(キャット目線だとその逆)
  6. BMWを探してもアルゴリズムがなかったので順行ベンツに乗って一旦その場を離れる
  7. ベンツに乗ったまま捨てられているオレンジケースを回収(手をかざすと弾丸が浮かび上がるシーンと同じ原理)
  8. ベンツでBMWと逆行アウディに追いつき、ケースを持ってアウディに乗り換え
  9. ケースをBMWに投げ返すが、そこにいた逆行SAABからBMWへアルゴリズムが戻っていくのを目撃し、最終的にはアルゴリズムはSAABの中にあることを把握
  10. 逆行SAABを小突いて横転させる
  11. BMWの主人公がケースとアルゴリズムを投げ渡すという因果を成立させるため、キャットに銃を突きつけて「1…2…3…」と逆カウントする
  12. 窓を閉めてしばらくBMWと並走
  13. UターンしてSAABのとこまで行き、火をつけて爆発させる
  14. 順行の仲間に指示して少し未来のフリーポートに停めてあるSAABからアルゴリズムを回収

主人公たちが輸送トラックからアルゴリズムを強奪した直後、無線を傍受すると逆さ言葉の意味不明な会話が聞こえるシーンがありましたよね。実はあのシーンを逆再生してみると"Go pick up the algorithm at the Freeport."と言っているらしいです。つまり、最終的なアルゴリズムの位置を把握したセイターが部下に指示していたんですね。

ケースの発信機はいつ取り付けた?

フリーポートで逆行後、主人公はニールからスマホとイヤーピースを受け取り、そのスマホの画面に表示されているケースの位置まで逆行SAABを運転して、ケースにイヤーピースを取り付けています。ではなぜケースの位置情報がイヤーピースを取り付ける前にわかったのでしょうか?

私はそもそもこのイヤーピースは盗聴用のマイクであって、位置情報の発信機ではないと思います。逆行後の主人公とニールの会話を見てみましょう:

主人公Was the transponder on the case?オレンジのケースに発信機は?
ニールWe've tossed that case.ケースは投げた。
主人公I'm moving backwards. It's the ball I have to follow. Give me the reader.あのケースを起点にして動くしかない。受信機を。
ニール(ポケットからスマホとイヤーピースを出して渡す)

ニールの返答が意味不明すぎて翻訳者の苦心が見て取れますね。はいここ、またなんです。字幕ミスです。というかこれに関しては何度聞いても字幕は正しくてロバート・パティンソンが台詞を読み間違えたとしか思えないんですが、実はここ脚本では"We've tossed"ではなく"He'll have tossed"になってるんですよね。Heとはセイターのことでしょう。つまりここのやり取りは実際にはこんなニュアンスです:

主人公Was the transponder on the case?ケースに発信機は付いてたか?
ニールHe'll have tossed that case.奴はもうケースを捨ててるだろう。
主人公I'm moving backwards. It's the ball I have to follow. Give me the reader.俺は過去に向かっているんだから、あのケースを追うべきだ。受信機を。

つまり、ニールは「セイターはもう空のケースなんて捨ててるだろうから見つけても意味ないだろ」と言っているわけです。これに対して主人公は「捨てたってことは時間を遡っている俺達から見れば逆に回収するってことだから、ケースを追えばセイターを見つけられる」と反論しているわけですね。

で、じゃあ発信機はいつ付けたのかという話に戻りますが、これは元から付いていたのだと思っています。輸送トラックからアルゴリズムを強奪するシーンを思い出すと、アルゴリズムを運搬している組織の管制室みたいなところでトラックがちゃんと移動しているかを監視しているシーンがありましたよね。これがトラック自体の位置情報を指していると当初は考えていましたが、考えてみればテロを仕組んでまで強奪するような超貴重品の入ったケースに発信機を付けてても何もおかしくありません。主人公らの言うreader(受信機)はこの発信機の出す位置情報を傍受するデバイスなのでしょう。

もし主人公たちが画面に映っていないところでケースに発信機を取り付けていたのだとしたら、"Did we put the transponder on the case?"というように聞くのが自然だと思います。"Was the transponder on the case?"は「発信機って付いてるんだっけ?」みたいな、元からそうなんだっけというのを確認しているように聞こえるんですよね。いや、知らんけど。

セイターを盗聴しているとき、なんでスマホの画面の録音はカウントダウンしてるの?

はい、ここは謎です。上で述べたように主人公がケースに盗聴用マイクと思われるイヤーピースをセットし、ベンツに乗ったセイターがそのケースを回収したところから盗聴が始まります。その場面ではおそらくリアルタイムにセイターの会話を盗聴しているわけですが、スマホに表示される録音アプリっぽいUIがなぜかカウントダウンしているんですよね。つまり録音の末尾から開始位置に戻っていくように逆向きに動いているんです。でもこれっておかしいんですよ。

まず前提としてイヤーピースもスマホも逆行していると思われます。どちらも回転ドアを通って逆行したニールがポケットから取り出したものですし、なんとかしてスマホとイヤーピースだけ回転ドアをくぐらせずに順行のままにしていたのだとしても、そのスマホは主人公が過去に持っていくので、元々ニールが持っていた物と主人公が持っている物という、同じ時間に二つ同じ順行物質が存在してしまうことになり矛盾します。同じ時間に二つ同じ順行物質が存在するには一度逆行させてから再度逆行させる必要があるわけですが、そんなことは明らかにやってないしやる理由も思いつきません。なのであのイヤーピースとスマホは普通にニールのポケットに入ったまま回転ドアを通って逆行物質になったと考えて間違いないと思います。

で、そうすると、主人公も、スマホも、イヤーピースも、盗聴対象のセイターも、すべて逆行しているわけですよね。であるならば、主人公目線では全て普通の世界と同じように振る舞うはずで、スマホのUIも開始位置からカウントアップしていくはずです。なのに、カウントダウンしているから、おかしいわけです。

メタ的なことを言うと、たぶんこれは「スマホの録音UIが末尾から開始位置に戻っていく」という面白い絵を撮りたいというのが最初にあって、そのカットをむりやり挿入したために普通に矛盾が起きているのだと思います。ただ、その上でなんとか擁護を考えてみると以下のようになります。

音は空気の振動ですよね。そして空気は順行物質です。なので、逆行物質であるイヤーピースが空気の振動である音を捉えることは、順行と逆行の相互作用になります。作中で順行と逆行が相互作用する場面では、その相互作用の「結果」が順行と逆行のどちら側に現れるかはケースバイケースです。自分とは反対側の時間の向きに現れた場合、主人公の腕の傷、BMWのサイドミラーのヒビ、窓ガラスの弾痕の例のように、「いつの間にか生じた相互作用の結果(跡)が、相互作用によって元に戻る(消える)」というような動きになります。これをイヤーピースとスマホの録音アプリにも当てはめると、「いつの間にか生じた録音済み音声データが、末尾からどんどん失われていく」と考えられます。

あのスマホを持っていたのはTENET組織の一員であるニールです。順行と逆行が入り乱れるミッションをこなすTENET組織であれば、こういった状況に備えた録音アプリを作っていてもおかしくはありません。なので、あの録音アプリは「録音済みデータが突如発生した際には、録音完了時刻のタイムスタンプを起点に、それを末尾から逆向きに再生する」というような仕様になっているのではないでしょうか。これであれば現代の技術でも実装可能なので、一応筋が通る気がします(苦しい…!)

主人公のSAABはなんで爆発で凍ったの?

これもぶっちゃけ言って「逆爆発のようなものが撮りたい」というところから出発してるでしょうから、深く考えてもしょうがない部分な気はしますが、雰囲気理論で説明するなら以下のようになると思います。

まず、あのSAABやそこから漏れ出ているガソリンは逆行物質です。逆行セイターが投げ捨てたライターも逆行物質でしょう。しかし、火が付くには酸素が必要です。周囲の空気にある酸素は順行物質です。逆行ガソリン×順行酸素で燃焼が起きること自体おかしいので、あの状況でガソリンに触れたライターから普通に炎が立ち上がってメラメラとSAABに近づいてくることがそもそもおかしいことになります。が、まあそこはSAABのガソリンタンクとかに入ってた逆行酸素が漏れ出たガソリンとともに漂っていたため発火できたとしましょう(!)。

逆行ガソリン×逆行酸素による燃焼ならば逆行目線では普通の炎のように振る舞ってもいいわけで、実際車に達するまでの炎は普通に見えるわけですが、爆発はそうではありませんでした。爆炎が上がったと思ったら車に吸い込まれていき、急速に冷却されて窓が凍結してしまっていましたね。なので、この部分は、順行物質である周囲の空気と、逆行現象である炎が相互作用して起きた「冷える爆発」という怪現象だったのだと思われます。

なお、普通の爆発ではないものの、爆発の時間の向きは逆行主人公の主観と同じ方向に起こっているように見えますので、これは順行と逆行の相互作用の結果が逆行方向に起きた例で、さっきの録音アプリで仮定した状況とは反対になります。結果が順行と逆行のどちら側に振れるのかがどうやって決まるのかは後述します。ここでは主人公の主観と同じ逆行側に振れたわけですが、あくまで順行物質と逆行物質の相互作用なので普通の結果にはなりません。

突然理科の話をしますが、ガソリンは炭素と水素の化合物である炭化水素の混合物で、ガソリンが燃えるというのはその炭化水素が酸素と反応して二酸化炭素と水が生成される化学反応です。簡単のためにすべてオクタンという炭素8個からなる炭化水素だと仮定すると、燃焼の化学反応式は以下のようになります:

2C8H18 + 25O2 → 16CO2 + 18H2O

この時、左辺の反応物(燃料)の状態は不安定で、右辺の生成物のほうが安定した物質になっています。その差分だけエネルギーが熱や光として放出されます。それが炎です。

で、作中では、逆行は「エントロピーを減少させる技術」であり、エントロピーが減少すると動きが逆に見えるというように説明されています。ようは、あの爆発は、上の化学反応式の矢印を逆向きにしたような現象だったと言えると思います。つまり、周囲から光や熱が吸い込まれていき、二酸化炭素と水蒸気から炭化水素と酸素が作られていくということです。

ここでもし登場している物質全てが逆行物質であったならば、順行から見れば単なる逆再生の爆発であり、逆行から見れば普通の爆発でしかなかったでしょう。しかしここでは周囲の空気が順行であるのに、炎(燃焼)は逆行しているため、本来巻き戻るべき爆発が存在していないのに爆発を巻き戻すような反応が働くことになっています。結果として、通常の空気からどんどん熱が奪われていくことになり、車が凍結するほどに冷やされてしまったのだと思います。つまり、本来ならプラスをゼロに戻す現象が、ゼロに対して働いたことで、むしろマイナスに振れてしまったようなことだと言えると思います。

逆行後のオスロの空港シーン

なんで逆行主人公は先に単独で突入したの?

空港保管庫に突入する前、逆行主人公の台詞では「セイターの手下と鍵の解除は任せろ」と言っていますね。なので、彼らの計画としては、順行の自分たちが回転ドアの部屋にやってくるよりも前の時間まで遡ったとこで忍び込んでキャットを順行に戻す予定だったのでしょう。ただ、その時間だと、扉はまだ施錠されていますし、あの時に現れた黒防護服の男が隠れている可能性が高いので始末する必要があると考えているわけですね。

しかしいざ行ってみると飛行機のエンジンの吸引でふっとばされて、順行主人公と取っ組み合いになり、あの黒防護服は自分自身だったことに気づくわけです。その後、なんとか回転ドアに入り、順行ニールに見逃され、取っ組み合い中の"自分たち"を尻目に保管庫から飛び出してニールに合図を送ります。

回転ドアに入った時点で時間の向きが順行に戻っているため、待機している逆行ニール目線だと、飛行機のエンジンで主人公がぶっ飛ばされていったと思ったすぐ後くらいに順行主人公が後ろ歩きでなにか叫びながら保管庫に入っていくというシュールな光景になります。そして逆行ニールはその順行主人公の合図の後に侵入します。すると、タイミング的には、主人公らの取っ組み合いの中盤あたりで侵入・潜伏し、順行の主人公とニールが中央の廊下に入ってくるよりも前の時間まで巻き戻ったあたりでキャット共々順行に戻るわけです。結果的に計画通りってことですね。

なんで逆行主人公は順行主人公に向けて発砲したの?

逆行主人公は順行主人公に捕まってやむを得ず取っ組み合いになり、回転ドアの部屋に入ったとこで拳銃を発砲していますね。弾丸は順行主人公には当たらず窓に穴を開けます。これはもちろん順行主人公を射殺しようとしたのではありません。おそらく、拳銃を奪われて使われたくなかったのでわざと当たらないように撃って弾倉を空にしたのだと思います。その後、ダメ押しとばかりに順行主人公に掴まれた拳銃を早業で分解して絶対に使えなくしています。ちなみにこれが順行目線だと壊れた銃の部品が集まってきて組み立てられていくため順行主人公はめちゃくちゃビビっています。

TENET組織が回転ドアを持っているなら空港に行く必要なかったのでは?

映画後半、TENET組織が回転ドアが設置された船を所有していることが判明します。これがあるなら命がけで空港に突入しなくてもキャットを順行に戻せたのでは?と思いますよね。

プリヤのセリフから、あの船はキャットを治した直後のタイミングでは、アルゴリズムが集結する場所と時間がわかったらすぐに向かえるようにトロンヘイム沖で待機しています。フリーポートの時点でのアイヴスたちの主観ではこれは未来のことなので、逆行して一週間遡ったタイミングでの船の所在なんて把握していなかったのかもしれません。「秘密が一番」が彼らの主義なので可能性は十分にあるでしょう。

また、シンプルに、フリーポートの時点ではTENET組織から見て主人公は役目を終えたコマの一つでしか無いので、そいつが「一般人を助けたいからお前らの回転ドアを使わせてくれ」と頼んでも使わせる理由がありませんね。

まあ、それにしては、単なる情でキャットを治そうとしているようにしか見えない主人公に対して、ニールはもちろんアイヴスたちもやけに協力的ですが、これは主人公が将来TENETを立ち上げる人物であることを知っていたからかもしれませんね。実際のところ、ニールは知っていたけど、おそらく幹部クラスの人間であるプリヤは知らなかったので、誰がどこまで知っているのかは謎です。個人的にはアイヴスとニールだけが知ってるくらいが萌えですね。

スタルスク12の戦争シーン&その他

死んでいたニールはどういう経緯であそこに?

スタルスク12の地下で死んでいた男が、主人公が撃たれる瞬間に立ち上がって代わりに頭で銃弾を受け、扉の鍵を開けて後ろ向きで去っていきます。あの男はニールだったことが最後に判明します。あれも時間の向きがこんがらがって分かりづらいのでニール目線で整理してみると以下のような感じですね:

  1. ラストシーンで主人公と別れる
  2. 逆行して再度スタルスク12へ行く
  3. どこかからスタルスク12の地下へ侵入する(一瞬通気口みたいのが映るのでそこ説が濃厚)
  4. 開いている扉の中に入り順行主人公と順行アイヴスが扉の外に出るのを待つ
  5. 扉を施錠する(いわば逆ピッキング)
  6. ヴォルコフに順行弾で頭を撃たれて死ぬ

逆行ニールはなぜ順行の銃弾で死んだの?

先ほど述べたように、TENETの世界では、順行の物体と逆行の物体が相互作用した場合、その"結果"が順行方向か逆行方向のどちらかに現れます。その相互作用の影響を受けたモノの主観とは逆方向に現れるケースでは、相互作用の"結果"がいつの間にか出てきて、相互作用の瞬間に元に戻っていくような、結果から原因に巻き戻る形になります。例えば以下のシーンです:

一方で、ヘッドショットされたニールに代表されるように、主観と同じ方向に"結果"が現れる例もあります:

つまり、衝突の"結果"が過去と未来のどちらに残るのかはケースバイケースと言わざるを得ません。というか、ここではわかりやすく結果を与えた側と受けた側に分けて考えていますが、相互作用なので両方向に結果が現れるケースだってあり得るかもしれません。

しかし考えてみると、本当にどっちに振れるのかがランダムならば、自分から見て逆行の武器に被弾した際、五分五分の確率でいつの間にか生じた大怪我が回復して、結果的になんの障害もなく行動を続行できることになってしまいます。ところが、ニールがオペラハウスでわざわざ逆行弾を使って敵を撃っていたり、スタルスク12の戦いでは順行武器と逆行武器が入り乱れる戦争をしていたりなど、彼らの中には明らかに「逆行武器は順行人間に対しても殺傷能力がある(逆も然り)」という前提があるように見えます。

そのうえで、作中の描写に矛盾しないルールを考えるならば、順行と逆行の相互作用が、因果が成立しなくなるような衝突だった場合、影響を受けたものの主観と同じ方向に結果が現れるのだと思います。

例えば、逆行ニールの頭にいつの間にか穴があいた場合、ニールはその場で即死するでしょうから、撃たれる瞬間に到達することができなくなります。キャットの腹にじわじわと銃創が生じた場合、キャットを撃つという脅しが使えなくなるためセイターがキャットを撃つという原因に到達できません。逆行SAABが運転中に凍結したら、セイターのアウディまで追いつけず、横転させられてライターで火を付けられるという原因に到達し得なくなります。このように、原因に到達できなくなる衝突が起きると、因果のつながりが断ち切られ、主観と同じ方向に結果が現れるのではないでしょうか。

例えば仮に、BMWが逆行アウディと衝突した時にサイドミラーではなくタイヤが傷ついてパンクしていた場合、いつの間にかタイヤがパンクしたら衝突するところまで運転できなくなりますから、もしそうなっていたら衝突時に傷が発生していたと考えられる、という感じです。

序盤に出てきた科学者いわく「逆行する弾が身体を貫通したら悲惨なことになる」らしいので、基本的に逆行武器は致命傷を与えられるため、被弾した者は撃たれる原因に到達できなくなり、因果が断ち切られて回復しない、のだとするとニールがわざわざ逆行弾を使用したり、スタルスク12の順行と逆行が入り乱れる戦争をしていることも説明できます。

なぜ逆行弾は致命傷なの?

上述の通り科学者いわく逆行弾で撃たれると悲惨なことになるらしく、実際腹を撃ち抜かれたキャットは応急処置を受けても急速に容態が悪化していました(まあ、普通の銃弾で腹を撃たれても全然死ぬと思いますが)。

前節で述べたのは、どちらの時間の向きに傷が生じるかの話であって、どちらにしろどちらかの視点では傷が発生します。ただし、この「傷」は普通の傷ではありません。順行と逆行の衝突によって受けた傷です。つまり「エントロピー増大の法則に従う普通の物理現象」と「エントロピーが減少しているかのように振る舞うヤバい物理現象」との衝突です。結果がどちらの時間の向きに現れようとも、その結果は普通の衝突結果とはならないわけです。つまり、順行×順行や逆行×逆行の場合と違い、順行×逆行では「傷の現れる方向と同じ時間の向きで見たら普通の物理現象だよね」とはいかないわけです。そのことがよく現れているのが爆発によって冷却されたSAABや、"悲惨なことになる"らしい逆行弾の怪我です。一見すると普通に見える主人公の腕の傷や窓ガラスの弾痕なども、見た目ではわからないだけ異常な衝突の被害者というわけです。

逆行SAABの爆発については、燃焼の逆の化学反応をして周囲から熱を吸い取っていくために冷却されていく、と考えました。逆行弾の場合には、化学反応というよりは力学的な衝突によるエネルギーのやり取りの話になると思います。

通常の弾丸は、発砲された瞬間に最大の運動エネルギーを持ち、人体に当たるとその運動エネルギーが失われ、摩擦熱などになるわけですよね。エントロピーが減少するように振る舞う逆行弾の場合、まず、巻き戻すべき"傷穴"がないので皮膚を押し広げて引き裂く機械的な破壊は起こしつつ、同時に、失うはずのエネルギーをむしろ人体から吸い取っていき、それらを運動エネルギーに変換してどんどん加速して銃口へ戻っていくということになると思います。その結果、銃創一帯の組織が熱エネルギーや化学エネルギーを奪われて、急激に冷えたり、壊死しやすくなったり、免疫も機能しなくなったりといったことになり、"悲惨なこと"になるのではないでしょうか。

じゃあなんで逆行すると容態が安定するの?

え?いや、まあその、撃たれたときの逆行弾と今の身体のエントロピーの向きが一致するので、えー、なんか通常の怪我だった判定になるんちゃいますかね。はい。まあ、そもそもありえないことなんで、ね?妄想するしかないんですよ。だからいいじゃん。雰囲気で。Don't try to understand it. Feel it.(迫真)

おわりに

SFの考察って、作者という"神"が存在しているので、神の存在を前提にして科学をしていた昔の科学者や哲学者の気持ちになれて楽しいですね。

ただ改めてこの映画、「スパイアクションもの」としてみるといささか難解すぎますね(いまさらピクミン)。あとプロットの都合でキャットとセイターの関係が異様に生々しい!主人公やニールのキャラとか、任務の疾走感はめっちゃツボなので、ノーラン監督の直球スパイアクション作品も観てみたいんンゴですなぁ…。ちなみに「SFとかいいから最高のスパイアクションを観せてくれよ!」という方にはボーン・シリーズ3部作と007スカイフォールをおすすめします!あ、映画といえば羅小黒戦記2が最高でした。もう上映館少なくなってますけど皆さん観ましょう。

ほな、良いお年を。てかクリスマスの夜に何やってんだ?